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再挙 1

 あけましておめでとうございます。2018年1発目の更新になります。

 タイトルは仮で、適当につけましたので変更するかもしれません。






 沈んだ心を励ますには趣味に打ち込むのがいいだろう。

 中村千夏は趣味の読書に打ち込むべく、外出した。行き先は彼女が通う高校の近くにある大学の、一般開放されている図書館だった。

 彼女の心は沈んでいた。

 彼女はとにかく気が弱い。中学生の時は毎年、学級委員を押し付けられ、3年生の時には副生徒会長にまでなった。もちろん、なりなくてなったわけではない。

 高校ではきっと、この弱い自分を変えよう、そう決意して、高校生になった。その矢先に、入学後すぐの合宿で班長を押し付けられた。

 その合宿も終わり、まだ間に合う、まだ変われると思っていたところに、委員会決めのホームルームが開かれた。委員会は全員がなにかにはいらなければならないという決まりはないが、彼女は当初、図書委員にならなってもいいかと思い、黒板の図書委員の文字の下に自分の名前を書き、立候補した。

 だが、他にも図書委員になりたいという女子生徒がおり、これにどうしてもと頼まれ、つい譲ってしまった。

 彼女は気落ちしたが、なれないならそれはそれで構わない、委員会なんてめんどくさいだけだと気持ちを切り替えた。が、すぐに、美化委員が決まらないからやってくれと頼まれ、これを引き受けてしまった。

 本当は断りたかった。だが誰もやりたがる者がおらず、決まらないことへのクラスメイトの焦り、苛立ちを敏感過ぎるほどに感じ取った彼女は、断れなかった。

 千夏は落ち込むと同時に、押し付けてきたクラスメイト、そして断れなかった自分に、腹がたった。

 だがいまさらどうしようもない。そのホームルームがあった週の土曜日、彼女は冒頭のように大学の図書館へでかけた。

 その図書館へは、彼女は中学生の時から何度も訪れたことがある。高校への坂を登り、途中Y字に分岐している道を左に曲がれば高校、右に曲がれば大学につく。

 大学の守衛が大きな声で挨拶してくるのを、小さな会釈で返し、門をくぐった。

 講義棟やなんかの建物の間を縫っていくとその奥に、3階建てで横に長い大きな建物が、どかんと座っている。これが図書館だ。なんでもこの地方の図書館では最大の大きさらしい。

 ここは誰でも利用可能で、大学生以外にも多くの人が利用している。日曜祝日以外は開いているが、流石に土曜日は閑散としている。飲み物の持ち込みはペットボトルのみ許可されているため、彼女は外の自動販売機でお茶を買っていくのがいつものパターンになっていた。

 中にはいると、1階に受付や映像作品を見るためのテレビスペースがあり、2階と3階が本の閲覧スペースになっている。そこには本棚や机が大量に並べられており、目当ての本を探すための検索用パソコンなどは20台を超えるほどあるだろう。

 エレベーターもあるが誰かと乗り合わせると気まずいため、いつものように階段をつかった。1番混むのが2階のため、そこを避けて3階まで上がる。

 3階につくと、その階段から1番離れた、隅にある6人掛けの長テーブルに荷物を置き、とりあえず椅子に座った。近くに人がいると落ち着かないため、彼女はいつもこの席を選ぶ。あいていなければできるだけ階段から遠い席に座るようにしていた。

 ここまでの坂道と階段を登ってきた体を休めるため、息をつき、ゆっくりとお茶を飲む。

(よし、今日はなにを読もうかな)

 千夏は鞄を席に残し、2階へ降りた。3階にも本はあるが、2階のほうがジャンルが幅広い。

 無数に並んだ本棚の間を練り歩きながら、本を物色する。すると、雑誌のコーナーに目が止まった。普段は小説ばかり読んでいるが、たまにはこういうものを読んでみてもいいかと、その1つ1つに視線を走らせる。

 女性向けから男性向けまで、多くの雑誌が並んでいる。見慣れないものばかりで、どれを選んでいいかわからない。そんな彼女だったが、わからないなりに興味のわく雑誌を見つけた。よくある女性向けファッション誌だ。

(周りの子たちもこういうの読んで勉強してるのかな……)

 千夏はあまりファッションに興味がない。自分も読んでみようか、そう思い手をだした。が、それとほぼ同時に隣から手が伸びてきた。千夏の、そしてその隣の手が、ぴたっと止まった。千夏は顔を上げる。いつの間にか隣に女が立っていた。

 この女もこの雑誌が読みたいのだろう、千夏は手を引きそうになった。だがすんでのところで踏みとどまる。

(だめだめ、ここで遠慮しちゃうからだめなんだよ)

 千夏は、その隣の女を見た。年齢はおそらくそこまで違わないだろう。よく見ると、なんとなくだが気が弱そうだ。

 千夏はすぐ遠慮してしまう自分が嫌いだったし、そんな自分を変えたかった。だがいきなり変えることは難しい。それなら小さなことから、今隣にいるこの気の弱そうな女から、どこにでもありそうなファッション誌を勝ち取る、ここからまず変わっていこう、そう思った。

「あの、私、これ読みたいんです」

 千夏はその雑誌を指差した。相手の女は伸ばした手をそのままに固まっていたが、すぐに同じように雑誌を指差し、

「あ、私、今日はこれを読もうと思ってきてて」

 女はそういいながら、顔を上げた。ここで初めて、2人の目があった。

 千夏は思わず手を引きそうになった。だが、ぐっとこらえた。相手の顔を改めて見てみると、やはり気が弱そうだ。それになんてことのない雑誌を読みに、わざわざこんな坂の上の大学までくるだろうか。それは考えにくいだろう。ここは引き下がれない。

「ど、どうしてもこれを読みたいんです」

 まっすぐ相手の目を見て、雑誌を指差す手を小刻みに振る。

「私も、どうしても読みたくて」

 女も食い下がる。

(なんでそんなにこだわるんだろ……)

 千夏は、そこまで読みたいのならもう譲ってしまおうかとも思ったが、ここで譲っていてはいつまでも変われないままだと思いなおし、より一層決心を固めた。

「えと……、じゃあ、私が読み終わったらあなたのところに持っていきます」

 千夏はそういって、雑誌を手に取ろうとした。

「待って!」

 女の予想外の声に、千夏は思わず手を止めた。

「あの、私が先に読みます。それからあなたのところに持っていきます」

 女はそういうと、千夏が手を止めているその隙に雑誌を掴んだ。

 流石に先にとられてしまっては諦めるしかないか、そうも思ったが、この日の千夏はいつもと違った。絶対に譲らない、遠慮しない、その決心は固い。

 女が掴み、手元に持っていくその雑誌に、千夏は急いで手を伸ばした。

「ごめんなさい、どうしても読みたいんです。譲ってくれませんか」

「私だって読みたいんです。手を離してください」

 女は雑誌を引き寄せた。負けられない。千夏もぐいっと引っ張る。

「あなたが離してください」

「あなたこそ」

 奪い合いになった。互いに譲らない。

 千夏は必死だった。全身に力をいれ、重心を後ろに傾ける。手は絶対に離さない。力はまったくの互角で、時折バランスをとるために足踏みしたり、前後の足を入れ替える以外はほぼ動きがない。膠着した。

「くっ……、ぐぐ……」

 食いしばった歯の隙間から息が漏れる。

「いい加減にしてください」

「こっちの台詞です」

 2人は小声でぼそぼそと言い争っていたが、静かな館内の一角の、この異常な雰囲気に気づいたらしい図書館の職員がやってきてしまった。

 駆けつけた中年の女性職員は、目の前で繰り広げられている雑誌の争奪戦に、目を丸くした。

「ど、どうされました?」

 職員は信じられないという目で、2人を交互に見た。

「私が先に手にとったんです。監視カメラを確認してくれてもいいです」

 先手を打ったのは、相手の女だった。千夏も負けてはいられない。

「わ、私が先に見つけて、それで……」

 もっといいたいことはあったが、急なことで言葉が続かない。

 おそらく職員は、この子供のような争いに心底呆れただろう。だがそんなことはまったく顔にださず、なにやら長々と喋った後、

「そちらの方に」

 そういって、女のほうを指した。その後も職員はなにかいっていたが、千夏の耳にははいらなかった。だがこういわれては諦めるしかない。千夏はゆっくりと手を離した。

「じゃあ、後で持っていきますよ」

 そういった女の顔は、喜びと軽蔑が入り混じった笑顔を浮かべていた。少なくとも千夏にはそう見えた。

 女が雑誌を持って3階に上がっていく。千夏も少し離れて階段を上がり、1人で自分の席に戻った。

 他の本を読もうという気にはなれなかった。そこまであの雑誌にこだわりがあったわけではないが、結局譲る形になってしまったことが、ただただ悔しかった。

 これまでなにもかも遠慮してきた。人と衝突するのを恐れて、引き下がり続けてきた。そこから変わろうと少し勇気をだしてみたが、結果は振るわなかった。自分はあんな気の弱そうな女にすら勝てないのか、あんな女相手でも引き下がらなければならないのか。その悔しさで、自然と涙がでてきた。千夏はすぐに図書館をでた。

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2018年一発目楽しみにしてました!
続き楽しみです!

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Author:デジタル
キャットファイトの小説を書いていこうかと思います。

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