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見栄 2

 その約束の当日、美絵はやはり高校の制服を着て、スカートをこれでもかと短くし、化粧をして、妹の亜美と一緒に家をでた。

(なんでこんなことになっちゃったんだろ……)

 憂鬱な気持ちでペダルを漕ぎ、20分もいったところにあるひとけのない路地の、小さな空き地にはいった。そこには、妹の所属しているグループの面々が6人並んでいた。

 その少女達は絵美を見ると声を上げた。相手が連れてきた高校生の女に負けず劣らずの頼もしさを感じたらしい。周りの少女達は口々に美絵のことを先輩と呼び、褒めそやした。絵美としても悪い気はしないが、これから起こることを考えていると、素直には喜べない。

 そうこうしているうちに、相手のグループもやってきた。人数はこちらと同じ、彼女達は余裕綽々という表情で歩いてきたが、美絵の存在を見つけると息をのんだ。

「こっちも対抗して先輩つれてきたから」

 こちらのグループのリーダーが、そういって美絵を指した。相手のリーダーらしい少女はごくりと唾を飲み込んだが、すぐさま、

「ふん、こっちには実由紀先輩がいるし」

 そういって、その実由紀先輩と呼ばれた高校生を指す。

 その高校生は、美絵と同じほどの長身で、中学生のグループに混じると目を見張るほど大きい。目つきもするどく、近寄りがたい雰囲気だった。

(この人と……)

 胃がキリキリと痛んだ。

 一列に並んで向かい合い、話し合いの場がもたれた。中学生ばかりの中、双方の列の真ん中には高校生がいるという異様な光景だった。

 こちらのリーダーの主張は、件の男と別れること、今回の騒動の詫びとして全員で謝罪をすることで、相手からの主張はその男から手を引くことと、やはり謝罪だった。

 怒号の飛び交う話し合いは成立するわけもなく、結局代表者による決闘で決めることになった。もちろんこちらの代表は美絵に決まっている。

「美絵先輩、お願いします」

 こちらのグループの誰かがそういった。美絵は恐々と1歩踏み出した。

「実由紀先輩、やっちゃってください」

 その言葉に、その実由紀先輩と呼ばれた女も1歩進み、美絵と向かい合った。

(まだ心の準備が……)

 美絵は不安でいっぱいだった。喧嘩などしたこともない。他人との衝突を避け続けて生きてきた。殴り合いになれば醜態を晒すのは目に見えている。そうなれば妹に軽蔑されるだろう。どうするか、相手の目をじっと見つめた。脅し文句の1つも言おうか、いや、まだなんとか衝突を避けられるのではないか、考えはまとまらない。

 じーっと相手の顔を見ていた美絵は、あることに気がついた。

(この実由紀とかいう女、どこかで見たことが)

 2人が向かい合ってから、それぞれじっと押し黙ったまま数十秒が過ぎた。そんな光景見ていた妹、亜美は期待と不安を持って、その光景を見守った。もちろん期待のほうが遥かに大きい。この姉ならばきっと、相手の女を叩きのめしてくれるだろうと信じていた。

 だが、一向に始まる気配がない。どうしたのだろうか、さっさとやっつけてやればいいのに、そう思った。まさかこの姉が、初めての喧嘩に物怖じしているとは、夢にも思っていない。

 双方のグループも、黙って見守っていた。吹き抜けていく風の音だけが耳に入る。

 美絵は、相手の女の顔をじっと観察していた。なにかが引っかかる。

「フルネームを聞いてもいい?」

 思い切って問いかけた。

「小山実由紀」

 聞き覚えのない低い声だった。しかしその名前には確かに覚えがあった。小山実由紀――、美絵は記憶を大慌てでかき回し、そして見つけた。

 中学の何年生だかで、同じクラスになったことのある女だった。たしか自分は小山さんと呼んでいた。背の順に並んだ時にいつも美絵のひとつ前にいて、体育の授業ではペアを組んで準備運動をしていたような覚えがある。それ以外の印象は特になく、おとなしく真面目な学生という印象だった。それがどうしてこんなところに……、なにか訳があるのだろう。

 美絵はぐいっと実由紀と顔が触れ合うくらいまで近づくと、

「私、倉本美絵だけど、中学の時、同じクラスだったよね? ほら、体育でペアとか組んでた」

 と、実由紀にだけ聞こえるようにささやいた。

「やっぱり、どこかで見たことあると思った。どうしてこんなとこに?」

 実由紀も小声で返してくる。これなら喧嘩をしないで済むかもしれない。

「あなたから見て右から2番目の女の子、あれ妹なの。ほら私って体が大きいから」

「なるほどね、私も従姉妹に頼まれて。ほら、左から3番目」

 実由紀の後ろに並んでいる中学生の列、左から3番目にちらと目をやる。相手グループのリーダーの少女だった。いわれてみれば確かに面影がないでもない。

「ねえ、なんとか喧嘩しないで済む方法ない?」

 絵美は実由紀に目を戻した。知り合いなら、なんとかなるのではないか。

「あなたがここで降参してくれたら助かるけど。私だってやりたくないし」

 実由紀は遠慮がちにいったが、その提案は呑めるものではなかった。妹に格好の悪いところを見せられない。

「それは私には無理かな。妹への面子もあるし」

 言外に、そっちが降参してくれという思いを臭わせる。

「喧嘩したくないんでしょ? それしかなくない?」

 だがしかし実由紀は、あくまで提案を変えるつもりはないようだ。

 おそらく実由紀は自分のことを舐めてかかっている、ここはひとつ強気で――、

「いっとくけど昔の同級生だったあなたを殴るのが可哀想だから喧嘩したくないんだ、わかる? 喧嘩自体はよく妹とするし、慣れてるんだよね」

 渾身のはったりだった。妹との仲は良好そのもので、喧嘩など一度もない。

「へぇ、私も弟がいるんだけど、やっぱり喧嘩とかするんだよね。体も向こうのほうが大きいし」

 実由紀の言葉が本当かどうか、美絵に判断する手段はなかった。嘘だと思うが、万が一本当なら勝ち目はないのではないか。いよいよ回避したい思いが強くなる。

「弟君も男の子だから遠慮してると思うよ、やっぱり。その点私は姉妹喧嘩だから本気だし。負けたこともないから」

「妹さんちっちゃくない? あんな子と本気で喧嘩してるとかいわれてもね」

 実由紀はひいてくれない。

(どうしよう、挑発はやめて頼みこもうか、同情くらいしてくれるかも。でも弱みは見せたくないし……)

 頭の中で次の一手を探す。だが答えはでない。

「したくないんでしょ? 素直になったほうがいいよ」

 今度は実由紀のほうから語りかけてきた。

「あなたが降参してくれたら、最大限顔を立ててあげる。なんとかまとめるから、ね?」

 優しい声音だった。だが美絵は確信した。実由紀も喧嘩を回避しようと必死なのだ。ならやることはひとつ、とにかく強気に押して、相手の心をおるしかない。

「こわいんでしょ、私と喧嘩して、情けないところを従姉妹に見られるのが」

 自分がそうなのだが、これは実由紀も同じに違いない。美絵は冷たく言い放った。

「本当は喧嘩慣れなんかしてなくて、弱い自分を見られて、それで負けたりなんかしたら、従姉妹に嫌われちゃうかもね」

 実由紀の目が泳いだ。動揺しているのが簡単にわかった。

「あの子に嘘ついてたんでしょ?」

 と、実由紀の後ろの少女を顎で指す。

「不良っぽい武勇伝とか語って、そしたら頼られて、引くに引けなくなった。そんなところかな。ほら、目が泳いでる、図星?」

 ここしかない、美絵は畳み掛ける。だが急に実由紀の目が、まっすぐにこちらを見返した。

「あ、わかった。あなたがそうなんでしょ? 妹さんに嘘の武勇伝語って、頼られて、引くに引けない。全部あなた自身のこと、違う?」

 突然の反撃が胸に刺さる。必死に動揺を隠そうとしたが、隠せるものではなかった。

「ほら、目が泳いでる。可哀想」

「そっちこそさっき動揺してたでしょ。全部わかってるから」

 2人の口が止まった。全部見透かされている、もうはったりは通用しない。ここまでくれば回避は無理か、危機感が募る。

「もうやるしかないんじゃない? 後はあなた次第だけど」

 美絵は一か八かの最後通牒を突きつけた。もう引けない、後は実由紀がどうでるか、それだけだった。

 実由紀はあからさまに驚いている。もしかしたらこれは……、かすかな希望が湧いた。

「そうだね、やろうか。そっちがその気なら」

 希望は一瞬で裏切られた。だが、そっちがその気なら、という台詞はこちらに逃げ道を用意しているように聞こえる。まだ回避する術はあるか。だが下手にでるわけにもいかない。やるしかないか、美絵は覚悟を決めた。

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No title

同じ状況下でのシュチュ素晴らしいです!

Re: No title

> 同じ状況下でのシュチュ素晴らしいです!

裏カツさん、コメントありがとうございます

興味津々な展開。下手な戦いの方が見る楽しみがあります。 妹の前で、屈辱を受けるのは誰か~

Re: タイトルなし

> 興味津々な展開。下手な戦いの方が見る楽しみがあります。 妹の前で、屈辱を受けるのは誰か~

コメントありがとうございます。
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Author:デジタル
キャットファイトの小説を書いていこうかと思います。

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